一般のスーツでは、上着の肩の部分は、2枚の布を縫い合わせるのに対し、開発したスーツは4つのパーツを立体縫製し、肩パッドも外すことで、肩の周囲にゆとりを持たせて、車輪を回すときの負担を軽減しました。また、ゆとりを持たせることで、その他の行動でも動きやすく疲れにくく、布地の密着による群れも防止し、床ずれの防止にもつながります。
ズボンも尻の部分も、一般より4枚多い6枚の布で構成し、車イスに長時間座っていても、違和感を感じないなどの工夫を凝らしています。また、座る姿勢に合わせてズボンのウエスト部分を斜めのカーブに裁断。ヒジやヒザも曲線に仕立ててシワや着崩れ防止に配慮しました。車イスのハンドリム回す際にスーツの袖が邪魔にならないように、袖が捲れるようにマジックテープで開閉できる仕立ても施されています。
■車椅子をこぐために、腕の動きを考え広くとられた背広と4ピースで縫い合わされた背中部分。なお肩パッドは入れてありません。
■車椅子に乗ると腕を曲げる姿勢が多いため、予め袖の部分を曲線に仕立てて、シワや着くずれを少なくします。
■Vゾーンを小さめにして、衿もとが開くのを防ぎます。また、腹ぐせをたっぷりとることで、お腹のツッパリを消すようにしています。
■ジャケットの裾がだぶつかないようにサイドベンツの重ね部分を多くとり、その裁断も曲線を採用しました。
■車椅子のハンドリムを回すのに、袖口が捲れるように、マジックテープで開閉できる仕立てです。
■このように袖口を捲ってマジックテープでとめて、ハンドリムを回すときに袖口がじゃまにならず、安全に操作できます。
■ベルト部分を曲線状にすることで、後股上を深くしました。また縫い合わせを多くとることで、ゆったりとした仕立てで、楽な座位姿勢がとれます。
■パンツの裾上げは、逆モーニングカットで前裾を長くして、裾がつり上がらないようにしています。
■うしろ膝を曲げやすくするために、うしろ膝の関節部分に、切れ目を入れ縫い合わせてあります。また前後を曲線で仕立てることで膝のあまりを消しています。
■尻まわりは、立体裁断で分割された部位を、紙風船の構造で曲面に仕立てることで、身体に密着することなく、またポケットを省くことでも床ずれを防止しています。
■股上を浅くすることで、座位姿勢時の下腹部のふくらみを抑えます。
バリアフリー社会が進んでいくなかで、服飾業界も介護用衣服だけでなく、社会に出る為の衣服を提供していこうと考えています。車椅子でも元気に働いておられる方も多く、またこれから働きたい方も増えてきています。
しかし、一般のビジネススーツは立ち姿用にできていますので、車椅子では「腕が動かしにくい」、「床ずれが起こる」などの欠点が多くありました。
私たち60人以上の身障者の方からヒアリングをおこない、120項目以上の改良点をピックアップしました。それを龍谷大学RECの村井教授との産学連携で研究しながら絞り込み、座った姿が美しくて操作しやすいオーダースーツとして商品化することができました。
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